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連載第2回 方程式は算数を学ぶ上で有益か?

塾長の独り言 連載第2回 方程式は算数を学ぶ上で有益か?

まず、わたし自身の話から…

 中学生や高校生のころ、わたしは数学が得意でした。でも、わたしはいま、算数の問題を解く時に方程式を使って解こうという気には、とてもなれません。

 算数を解く上で方程式が使えることはほぼないし、方程式を使える問題がまれにあっても、それらは方程式を用いず算数的に思考力を働かせて解く方が圧倒的にラクだからです。

 

方程式と算数の比較

 例えば数学で典型的な連立方程式に相当するものとして、算数には「消去算」という考え方があります。比較的易しい問題を挙げてみましょう。

 

 アメとチョコを買います。アメが6個とチョコが8個で500円です。アメが7個とチョコが5個で410円です。アメとチョコを3個ずつ買うと何円になるでしょう。

 

これを数学では…

アメ1個をx円、チョコ1個をy円とすると

   6x+8y=500……①  7x+5y=410……②

   ①×7 42x+56y=3500……③

   ②×6 42x+30y=2460……④

  ③-④            26y=1040

            y=40……⑤

  ⑤を①に代入して 6x+8×40=500

           6x=180

            x=30

  ∴3x+3y=30×3+40×3=210 

               よって 210円

 

しかし算数的な思考を用いると…

「あ、アメが6個と7個で合わせて13個。チョコも8個と5個で合わせて13個になるのか。だから…えーとアメもチョコも13個ずつ買うと、合計で500+410=910円になるんだな。…ということは、それぞれ1個ずつ買うと910÷13=70円になるんだから…わかった! 3個ずつ買うと70円×3=210円だ。おわり。」

 

というわけです。

 

方程式と算数で、解法の違いは…

 上の例題から分かるように、方程式では「形式」に頼るカチっとした解法になります。形式に乗せられる問題であれば確実に答えが出せるという安心感がありますが、かなり面倒で遠回りです。

 それに対し算数では、発想や感覚に頼る柔らかい解法で、それを見つけ出せれば近道を通って「ラク」に答えを出せます。しかし「場当たり的だ」という感は否めません。

 

 つまり両者の間には…解く過程で、感覚や発想力を総動員し脳を使って考えるという行為(思考)が存在しているかどうかという違いがあるのです。

 算数が得意なお子さんが中学受験を経験し、中学入学後に典型的な問題を方程式を使って解くことを嫌がる…という話をたまに耳にします。彼らが異口同音に唱えるのは「だって方程式なんか立てなくても、ちょっと考えればすぐに解けるじゃないか」ということです。…もっとも彼らもいずれはすぐに馴染んで方程式を用いる解法を身につけます。彼らは「思考力と方程式」という非常に強力な武器を両手にたずさえて、その後もぐんぐんと力を伸ばしていくことになります。「公式の暗記? そんなの必要ないでしょ? 公式なんて、考えれば自分で導くことができるでしょ?」と、あっけらかんとして高等数学をも軽くやり過ごします。

 一方で、算数は苦手だったのに、中学で数学を習ってできるようになったという話もよく聞きます。それはもっともな話です。出題パターンと形式だけを覚えて機械的に処理しさえすれば確実に答えが求まります。中学入学当初に習う数学に、感覚と発想力の出番などないのです。ところがそれも長くはもちません。いよいよ高等数学を習うにいたり、それこそ「星の数」ほどの公式の暗記が彼らを絶望に追いやることになります。たいへん可哀想なことですが、小学生の間に思考力をきちんと鍛えておくべきだったのに…ということになるのです。

 

方程式は算数を学ぶ上で有益か?

 ここで今日のお題に戻ります。方程式は算数を学ぶ上で有益か?

 答えはこうです。一般的に有益ではない。それどころか、むしろ有害かもしれない。

 冒頭でお話ししたように、いわゆる難関校と呼ばれる中学の入試問題の中では、方程式が算数に役立つことはほぼありません。「方程式という形式」に依存するのが不可能な問題ばかりが出題されるからです。それに立ち向かうには、鍛えられた思考力、つまり柔らかな発想と感覚に頼るしかありません。

 しかし鍛え上げられた思考力を持つ者が方程式という手法を手に入れたとき、将来にわたって、それはこれ以上ない強力な武器となります。それはひとえに、方程式が思考力を高度に抽象的な次元まで引っ張り上げてくれるからです。

 逆に思考力の未熟な子どもが方程式の手法を身につけると…結果は目に見えています。形式的で機械的で手軽な手法を身につけた子どもは、それ以上思考することをやめ、つねに既存の形式を求めてさ迷うようになります。人間は易きに流れる生き物ですから…。こうして「初見の問題は解けない。だって習ったことないんだもの…」という事態に陥るのです。

 

では方程式を習うのは、どのタイミングが理想か?

 わたしは、方程式を子どもに教えるのは、どんなに早くとも5年生の後半以降だろうと考えています。それまでは、算数のあらゆる分野において物事をイメージ化し論理的に言葉で解釈する「思考のアウトプット」の訓練をじっくり行って思考の幅を広げるべきです。

 大人にとって有益な道具は、時として子どもにとって有害である…。そんな方程式はそんな道具の一例なのかもしれません。

 

 

算数塾Arith塾長 斉藤太郎

                 →次回に続く

 

 

 

 



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